こんにちは、「投資としての仮想通貨」管理人のなおです!
コインチェックがマネックスに買収されることが決定されました。
すでに報道はなされておりますし、記者会見なども行われているのでご存知の方も多いと思います。
そこで本稿ではコインチェックの買収事案を参考にしつつ、バリュエーションやそれに関する会計処理についてエントリーしてみようかなと思います。
ちょっと初心者向けではないかもしれませんが、お読みいただけると嬉しいです。
それでは行ってみましょう!!
Contents
コインチェックの買収金額って安い?
買収金額が36億円って安くね?
なおが報道で最初に得た感想です。
NEMの消失の件について、ほぼ現金で約400億円弱の支払いができる会社というのは相当に基礎体力があるはずなので、このバリュエーションは小さいと思ったのです。
ただ、よく考えると、コインチェックはいまは仮想通貨交換業の登録が終了していない「みなし業者」の扱いです。
仮にこの登録に障害が生じた場合はそもそも事業の継続性に疑義が生じてしまうことになります。
また、2017年は仮想通貨界隈では価格の上昇局面であったために、一時的な利益が計上されている可能性もあります。
当然マネックス側としてはこれらの点について一定のリスクを識別したのでしょう。
コインチェックの買収にはアーンアウト条項が入ってる??
アーンアウト条項が入っているという報道あり
そうこうしているうちに、本件買収にはアーンアウト条項を買収契約に入れたとの報道がありました。
アーンアウト条項とは買収するために支払うお金の全部を買収時に支払うことをせずに将来の一定の条件を満たした場合に追加で支払いを行うということを約束する条項のことです。
コインチェックのアーンアウト条項の件は、以下の日経新聞の記事がそうです。
有料なので購読している人しか読めないですが笑。
これを読むことで、なおとしては買収金額についてある程度納得することができました。
なお、アーンアウトについてもっと詳しく知りたい!という方はこれなんぞはなかなかわかりやすいかもしれません。
コインチェック買収に関するマネックスの適時開示文章を見に行ってみた!
そこで早速マネックスのサイトに行き、適時開示の文章を読んでみました。
そうすると、以下のような文章を発見しました。

これの「※2」をご覧ください。
「上記に加えて、コインチェックの現所有者との間で条件付対価に関する合意がなされています。今後3事業年度の当期純利益の合計額の2分の1を上限とし、一定の事業上のリスクを控除して算出される金額が追加で発生する可能性があります。」
よく見ると、ここで記載されているのは条件ではなく、支払いの限度額についてです。
つまり、どのような条件をクリアーした場合に支払いが行われるかについてはこの適時開示の文章からはわかりかねます。
ただ、おそらく、金融庁への仮想通貨交換業への登録が無事にできた場合というのが条件となっており、そのほかについては同じように当期純利益が50億を超えた場合、などの業績条件がある程度ではないかと推測されます。
コインチェックの現経営層にとってはアーンアウトの方がむしろ有利?!
これよく見ると、コインチェックの現経営陣にとってはむしろ有利じゃね?笑
という気もしてきました。
というのも、仮にコインチェックがNEMの消失をしなかった世界線を考えたとして、順調にIPOまでたどり着いたとします。
一見ハッピーに思えますが、一概にそうとも言えないです。
経営者が株式を売却するのはなかなかに難しいからです。
これは法的に難しいというのと倫理的に難しいということの両面があります。
法的に、というのはもちろんインサイダー取引に該当しないかどうかということです。経営者はその企業の今後の動向に一番詳しい立場にあるはずなので、十分に気をつけないとインサイダー取引に該当してしまいます。
次に、倫理的に、というのは、経営者はその企業の今後の動向に一番詳しい立場にあることに起因して、そもそもそのような人たちが株を購入するあるいは売却するというのは将来に対して、それぞれポジティブあるいはネガティブであるということになります。
このことが株価の上昇と下落を引き起こすリスクになります。
自分の行動によって市場へインパクトを与えることとになってしまうという点で倫理的に売買は難しいということです。
このようなハードルがある中でIPOして、イグジットまでして現金化するのは至難の技です。
それに対して、本件の条件付対価のケース。
このケースでは現株主兼経営者は単純に事業に注力し、当期純利益をあげるだけあげれば、その半分をほぼ無条件に取得することができます。
経営層にとって純粋に事業に対してのみ注力することができる環境の方が結果として企業価値も上昇すると思うので、こちらの方が結果的にはよかったのかもなと思い始めました。
コインチェックの買収時に使われたアーンアウト条項の会計処理
アーンアウトの会計処理について
会計基準としてはアーンアウト条項に従い支払いが行われるものは「条件付対価」として考えられることになります。
ひとえに、会計基準と言っても昨今のグローバル化された世界においては、3つの基準を即座に考えなければなりません。
もっとも、日本においては、日本基準とIFRSを考えておけば概ね問題はないでしょう。
そこで、以下では日本基準とIFRSにおける「条件付対価」に係る会計処理について検討を加えていきますね。
アーンアウトに係るIFRSの会計処理
基準第3号 企業結合
IFRS3.39
「取得企業が被取得企業との交換に際して移転する対価には、条件付対価契約から発生するすべての資産又は負債が含まれる。取得企業は条件付対価の取得日公正価値を、被取得企業との交換で移転された対価の一部として認識しなければならない。」
とあります。
IFRS3.40
「取得企業は、IAS第32号「金融商品:表示」の第11項における資本性金融商品および金融負債の定義に基づき、金融商品の定義に該当する条件付対価を支払う義務を金融負債又は資本として分類しなければならない。取得企業は、ある一定の条件が満たされる場合、以前に移転した対価の変換を受ける権利を、資産として認識しなければならない。第58項では、条件付対価の事後的な会計処理に関する指針を示している。」
とあります。
条件付対価については買収時に実際に支払った金額とは別に会計上で対価として認識することになります。
具体的には将来の履行義務であるとして負債の部に計上されることとなります。
買収時に認識した将来の履行義務である条件付対価についてはその後の状況により、追加的に計上が必要となります。つまり、条件付対価の発生が高まった場合は追加の費用認識が必要となり、反対にどうも条件付対価の発生はなさそうだぞ、ということになれば、反対に収益が計上されることになります。
アーンアウトに係る日本基準の会計処理
これに対して、日本基準におけるアーンアウトに係る会計基準を見ていきましょう。
条件付取得対価の会計処理ー企業会計基準第 21 号 企業結合に関する会計基準
27. 条件付取得対価の会計処理は、次のように行う。
(1) 将来の業績に依存する条件付取得対価
条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合には、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得原価として追加的に認識するとともに、のれん又は負ののれんを追加的に認識する(注2)(注3)(注4) 。
(2) 特定の株式又は社債の市場価格に依存する条件付取得対価
条件付取得対価が特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合には、条件付取得対価 の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、次の処理を行う(注5) 。
① 追加で交付可能となった条件付取得対価を、その時点の時価に基づき認識する。
② 企業結合日現在で交付している株式又は社債をその時点の時価に修正し、当該修正に より生じた社債プレミアムの減少額又はディスカウントの増加額を将来にわたって規則的に償却する。
(注2)条件付取得対価とは、企業結合契約において定められるものであって、企業結合契約締結後の 将来の特定の事象又は取引の結果に依存して、企業結合日後に追加的に交付又は引き渡される取得対価をいう。
(注3)条件付取得対価が企業結合契約締結後の将来の業績に依存する場合とは、被取得企業又は取得した事業の企業結合契約締結後の特定事業年度における業績の水準に応じて、取得企業が対価を追加で交付する条項がある場合等をいう。
(注4)追加的に認識するのれん又は負ののれんは、企業結合日時点で認識されたものと仮定して計算し、追加認識する事業年度以前に対応する償却額及び減損損失<額は損益として処理する。 (注5)条件付取得対価が特定の株式又は社債の市場価格に依存する場合とは、特定の株式又は社債の 特定の日又は期間の市場価格に応じて当初合意した価額に維持するために、取得企業が追加で株式又は社債を交付する条項がある場合等をいう。
日本基準ではアーンアウト条項がある場合は、買収時点では特に会計処理にそのことを反映することはしません。
条件が発生することが確実になってきた時点で、買収時に支払った対価に上乗せる感じで処理を行うこととなります。結果として、「のれん」で調整が行われることとなります。
また、買収時点から条件付対価の支払いが確実となった時点までに発生したと考えることができるのれんの償却額についてはその時点で一時の損益として認識することになります。
上記の議論についてかなり難しいなと感じた人は、会計の基礎がわかっていないということになりますので、初月無料で日商簿記3,2、経理の仕事に役立つ150以上の動画が学べるサイト【Accountant’s library】 などでまずは基礎をおさえることが必要かもです。
これは公認会計士受験をする際の専門学校で教えている教師の方が中心となって、日商簿記3級および2級を取得するための講座をオンラインで提供しているものです。
新しい分野を最初から独学するのは効率が良くないので、やめた方がいいと思います。
基礎を教えてもらってから独学する方が効率は何倍も違いますね。
コインチェックの買収にかこつけてIFRSのお勧めの本を紹介します!
IFRSにおける企業結合の詳しい説明については、
:やはり
:著者の長谷川さんは有限責任監査法人トーマツで長くIFRSや米国会計基準に関連する仕事を担当していたこともあり、相当に深い知見を有しています。
実務に深い知識を有している人が書いた本であるので、実務家にとってはありがたい情報が記載されています。
:有限責任あずさ監査法人により記載されている分厚い本です。分厚いだけあり、内容はとても充実しています。IFRSの実務で困るとなおはこれを参照するようにしています。これで概ねの内容や会計処理についての理解をした上で、上記の基準書を読むと頭に入ってきやすいですね。その意味で本書はお勧めできます。
:著者はIASBと呼ばれるIFRSを開発している機関に日本代表として関与していました。なのでIFRSがどのような過程を踏まえて基準書として出来上がるのかについてプロセスについて知りうる重要な人物が記した実務での判断にとって必要な情報が記載されています。
:上記と同様ですが、第二巻ではIFRSの基本的な考え方、及び「事業モデル」「金融資産の減損基準」「ヘッジ会計」「公正価値」などをテーマにしています。
とりわけ、なおとしては「事業モデル」の箇所はとても勉強になりました。「事業モデル」の概念はIFRSのさまざまなところで応用されているという主張です。詳細は本書を読んでいただく方が良いですが、簡単に言えば、事業モデルというのは経営者が実際に行った行動に着目することで会計処理を決定するのだ、という概念になります。
この概念が新しいのは、それまでは会計の基本は経営者の実際に行動というよりは経営者の主張を会計に表すことが重要と考えていたからです。
経営者の実際の行動というのは事後の概念です。
これに対して、経営者の主張というのは事前の概念です。
事前の概念で会計処理をしている場合は、経営者の主張が事後変化した場合、経営者の恣意性を排除し得ないため、経営者による利益マネジメントが行われてしまうことを危惧したために事後の概念である経営者の実際の行動によって会計処理を決定するという「事業モデル」の概念が出てきました。
ということが概ね記載されていて刺激を受けることができます。
などが解説としてわかりやすいかなと思います。
参考にしてみてください
終わりに「ベンチャー・既得権益層・チャレンジについて考える」
本稿はいかがでしたでしょうか。
なおは会計士ですので、ビジネスのセンスも経営者に比べるとやばいくらいないですし、ある種のチャレンジ精神についても少ないです。
ただ、ベンチャー企業が既存のシステムに対してチャレンジし、結果失敗してしまった際には大きな会社の参加に入ることがある種強制されてしまう。
このことには悔しく思いました。
ビジネスがスケールするにつれて既得権益層との摩擦は不可避的に生じてしまうので消し、その点をうまくコントロールできる人たちは自分達の自立を確保しつつ、成長することができるのでしょう。
対して、そのことに対して無知である場合は、コインチェックのようになってしまうのかもしれません。
もちろん、コインチェックの体質や体制面に問題があったことは確かです。
反省はしつつも、ベンチャーとしての気概やチャレンジ精神は無くさないので欲しいなと思い本稿の筆を置くこととします。