
こんにちは、「投資としての仮想通貨」管理人のなおです!
メタップスによるICOの会計処理について、エントリーを続けていますが、その間に紹介したブログに記載のあった、ICOを利用した倫理的にどうなの?!的な処理について、紹介してみようと思います。
関連記事:続!仮想通貨の会計処理(ICOの会計処理)について書いてみるよ! – 投資としての仮想通貨
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このブログでは、そもそもICOのうち、utility tokenに該当するICOのケースにおいて、結果的に少し問題となる会計処理が行われる可能性があることについて言及がなされています。
ちなみにIFRS上での収益認識に関する本としてはIFRS「新収益認識」の実務がとてもオススメです!
では、以下でこのブログ内容をもとにして、説明していきますね!
- ICOおよびその会計処理で倫理的に問題となるケースとは??
- 開発がホワイトペーパー通りに行かないケース
- ICOの会計処理によるメリット
- ICOの会計処理によるデメリット
- 終わりに_ICOの会計処理のパラドックスについて
Contents
ICOおよびその会計処理で倫理的に問題となるケースとは??
トークン発行時の会計処理
まず、例えば、将来に量子コンピューターを提供する約束でICOを行う企業があったとします。
説明の簡略化のためにここでは1トークンしか発行しなかったとします。
この場合、企業は
(借方)現金預金 100 /(貸方)将来の履行義務(負債) 100
という仕訳を切ることになります。
開発がホワイトペーパー通りに行かないケース
で、その後に、当初のホワイトペーパー通りに開発が進まずに、トークンの価格が20円まで下がったとします。
そして、さらに、企業はこの量子コンピューターの開発も諦めてしまったとします。
そのために企業はこのトークンを買い戻す決定しました。
この場合、企業は
(借方)将来の履行義務(負債)80/(貸方)履行義務免除益(収益)80
(借方)将来の履行義務(負債)20/(貸方)現金預金 20
という仕訳を切ることになります。
仕訳の説明をします。
まず最初の仕訳で収益が計上されていますが、これはIFRS15号では繰り延べた
将来の履行義務は公正価値評価をすることが義務付けられているからです。
そして、さらにいえば、会計処理以前に、企業は目標を達成することができませんでした。
それにも関わらず、企業は多額の収益を認識することができています。
もちろん、これは将来の履行義務が免れたという意味で企業にとってはプラスであるという解釈をすれば正しい処理であるとも言えるでしょう。
しかし、全体として見たときには、適当なホワイトペーパーによって、資金調達をして、その後に計画通りに行かずに、トークンのbuybackを実施してしまうことで、多額の収益を認識することができるというのは、怪しい人たちの怪しい資金調達を加速させてしてしまう可能性があります。
最初から、このような結果になるように計画すれば、資金調達だけできて、財やサービスの提供もせずに、しかも利益も計上できるわけですから*1。
この点を冒頭で紹介したグレゴリーサイモンさんは危惧して、このブログをエントリーしたようです。
指摘としてはかなり真っ当な指摘ですので、今後どのように会計処理が決定されるのか、基準設定主体はどのような基準を提案してくるのか注目しましょう!
ICOの会計処理によるメリット
上記のような危惧はあるものの、ICOやそれに付随する会計処理を実行するメリットは十二分に存在します。
①dilutionしない
これがかなり大きいと思います。
もちろん、株式ではないので、当たり前と言えば当たり前なのですが、スタートアップにおいては、資金繰りはとても重要な問題の一つである一方で、資本政策を間違えると創業者の持分が少なくなってしまい、頑張ってIPOしたのに創業者利益がほとんどない、なんてことにもなってしまいます。
この点、ICOをして、かつ発行するトークンをutility tokenにすれば、会計上は資本(純資産)ではなく収益となるので、dilutionはしない*2こととなり、創業者にとっては嬉しい手段となり得ます。
②返済の義務が必ずしもあるわけではない
上記ではdilutionが問題となりましたが、もちろんdilutionしない資金調達もあるとは思います。その場合はデットエクイティということになり、将来の返済が必須の資金調達方法となります。
また、デットによる調達の場合は、BSの負債の部が大きく膨らんでしまうため、債務超過となるリスクが高まります。
スタートアップの場合は債務超過がデフォルトかもしれませんので、あまり気にする必要はないかもしれませんが、IPO直前まできているような会社にとっては少しリスクがあるのも、また事実です。
この点、ICOをして、かつ発行するトークンをutility tokenにすれば、当初は負債が膨らみますが、履行義務の充足に伴い収益として計上されていくため、通貨を返済する義務自体はありません。
もっとも、当初のホワイトペーパーに記載された材あるいはサービスの提供義務はありますし、これが一番難しかったりしますが。
ICOの会計処理によるデメリット
①トークンの価値が市場で上昇した時に追加で費用計上が求められる
IFRS15号で負債に計上した将来の履行義務は期末において、「それを現時点で決済するとしたらいくらになるか?」という意味での公正価値へと評価替えすることが求められています。
そうすると、ICOをしたトークンの価値が市場で高評価され、価格が上昇した場合には、負債を増加させなければなりません。
と、同時に負債の上昇は費用の増加を随伴させるので、結果として費用が増加することになります。
ホワイトペーパーに記載した通りに開発が進んでいるからこそ、市場で評価されているにも拘らず、会計上は費用を計上しなくてはいけないというところに感覚的な違和感を覚えてしまう人が多いと思います。
この点がデメリットの一つと言えるでしょう。
②そもそも会計処理自体が不確定要素ありあり
メタップスの決算遅延の事例を持ち出すまでもなく、現在ではICOの会計処理が確定的な文章などで決まっているものはなおが知る限り存在していません。
そもそもICOによって資金調達した場合にそれが資本になるのか一旦負債として計上され将来的に収益となるのかについては発行するコインの種類や内容によって決まるため、一義的に基準を作るのが難しいと言った背景もありそうです。
いずれにせよ、現時点において会計基準として確定的なものがないとすると、監査法人による監査自体も時間がかかるでしょうし、一度決定した内容があとで覆されるといったリスクは十分に存在します。
あとで覆されることが収益計上ということであれば、発行主体である企業も受け入れることが可能かもしれませんが、これが費用計上を求められるとすると、少し抵抗感がありますよね。
終わりに_ICOの会計処理のパラドックスについて
ICOの会計処理のパラドックスについて言及してみましたがいかがでしたでしょうか。
なんとなく感覚的にはおかしい処理となってしまうことがわかっていただけたでしょうか。
開発が順調に進んでいるのに、費用計上が増加してします。
その反対に開発が全然進んでいないばかりかむしろ頓挫してしまったのに収益計上ができてしまう。
このようなパラドックスが存在するということを理解できれば、本稿をお読みいただいたかいはあるかと思います!
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